Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


 BMP7314.gif 歌声のしずく BMP7314.gif


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 こちらの住人の皆様には例年通りのそれだとはいえ、神事への支度と、それを観に来る人々への歓迎の準備という、慌ただしい中にも色々と、年に一度の作業だからこそのすったもんだもあり。だからこその、慌てたり笑ったりというお楽しみもあり。ありゃりゃ ここんとこの○○が足りねぇぞ、まあお待ち、そういう時はこうやって、おお婆ちゃん凄げぇ、さすが年の功…とか何とかいう、微笑ましいやり取りも大きにありの準備が執り行われている陰にては。

 「測って来た磁力の向性と強さはこれなんだな?」

 「ええ。ただ、歌声の波長への反応とやらで、
  多少の変化があるのかもしれないけれど。」
 「判った、じゃあそこは微調整出来るようにしておこう。」

 「サンプルの石ってのはどこやった。」
 「え? 作業台に置いたわよ?」

 「何じゃこの玉子は、全っ然割れねぇぞ。」
 「あ、サンジくん、それはダメっ。」

 「おい、ナミ。歌の練習はしないでいいのか?」
 「伴奏はお任せくださいvv」
 「あ、そうだった。」

 「一応、3位までは賞金も出るらしいし。」
 「そうよそうよ、練習しとかなきゃ。」

 「俺も俺もっ! 俺も歌うぞっ!」
 「わあ、ルフィっ。
  そんな大声で歌ったら町の人が怪しんで飛んでくるぞ。」

 こちらさんも…ところどこで脱線しつつも、秘密裏に別口の悪巧みの準備が進行しつつあり。

 「なぁにが“悪巧み”ですってぇ?」

  あわわw、おっかないよぉ…。と、ともあれ、いよいよ、聖なる泉の祭り当日と相成った。




     ◇◇◇



うあ、何かどきどきしちゃうな。
こればっかは最初の年から全然変わんない。
他の島から来てる屋台とか露店とかに、
変わったアクセや可愛い古着や置いてるの、
そういやアタシだけ見られないでもう4年目なんだよなぁ。
歌姫に選ばれるのって、
光栄っちゃ光栄だけれど、こうも続くと単なるプレッシャーだよね。
アンダンテさんが言うには、

 『声変わりってのは何も男にしかない訳じゃあない。』

女性だって子供時代と若いうちと、
それからお母さんになってからとを比べると、
声は、高さや大きさ、響きまで随分と変わるのだとか。
だから、
同じ人がずっとずっと“歌姫”であり続けるなんてのは無理な話で、
よほど意識して同じ声を保ってでもいない限り、
いつでもお役目交替は有り得ると。
歌姫選びへ出る相手へそんなことを言うなんて、
思えば妙な例え話だったけど、
あがり症なアタシを案じたか、そんな励ましもしてくれた。

 『ただまあ、
  歌い手さんでもない限り、昔の声の記録なんて残ってないし。
  男みたいに一晩でガラッとっていうのとは違うからねぇ。』

毎日聞いてる声が少しずつ変わってくってのは、
なかなか気がつかないもの。
それが今年か来年かは、
それこそ泉に訊かなきゃ判らない…ですって。
中途半端なんだから、もう。

 「お、じゃんか。」

聖なる泉の近くにある休憩所が、候補者の詰め所にあてられていて。
家にいたって落ち着けないからと、
そっちへ向かう道すがら。
色んな顔なじみからも
“頑張れよ”なんてお声掛けをいただいてた中へ、
いやによく通るお声がして。
何だ誰だと顔を上げれば、

 「あ、ルフィvv …とゾロさんと、」
 「いっやぁ、可愛らしいお嬢さんですねぇvv」

一昨日からの顔なじみ、
実は、聖歌隊のお友達からも、
あれ誰、なんて人、紹介してよと言われてた、
旅行者らしいルフィとゾロさんと、それから、

 「こちらさんは?」

今日はお連れさんが増えている。
随分と背の高い人で、アタシからすりゃ見上げんばかり。
サングラスや帽子は、ままファッションかなと思いもするけど、
この暑いのに
長袖のジャケットにアンサンブルの長ズボンを着こなしの。
紫外線に弱い人なのか、手も手套できっちり覆ってて、

 「……もしかして、前倒しのハロウィンの扮装かな?」

そりゃあよく出来てる骸骨のマスクかぶっているもんだから。
遠慮のない子供たちが見世物扱いで寄ってくるわ、
そんなつもりじゃなかったらしい もっとずっと小さい子らは
ひょいと視野に入った途端“うわぁん”と泣き出すわ。
何か凄っごく目立ってませんか、あんたたち。
大人たちにしてみれば、
ままお祭り騒ぎには違いないけど、
神聖な祭りへ不吉な仮装をしてくるとは
ちょーっと得体が知れない連中だよなと思うのか。
単なる傍観者とそれから、
胡散臭いものを見る目になってる人とが半々というところかも。
アタシも、何たって今初めて引き合わされた相手だし、
ついつい“どなた様?”という顔になったのへ、

 「よほほほほ〜、そんな方面の関係の者です。」

高らかに笑いもって応じてくださった彼であり、
はいと、手套越しながらも造花のばらをどうぞと差し出された。
あら、嬉しいvv
あ、このバラ、バニラの匂いがして面白〜いvv
え? 飴で出来てるの? あ、ホントだ甘いやvv

 「こいつはブルックって言って、俺の仲間だ。」

どーだ、おもしろい奴だろうと。
そこが自慢か むんと胸を張ったルフィの横では、
ゾロさんがおでこを大きい手のひらで覆ってて。
……相変わらずの相性だねぇ。(苦笑)
とはいえ、口を開けば随分とご陽気なお人だし、
どこかから聞こえて来た、今は亡き…あ、死んだ訳じゃなかったかな?
ソウルキングのお歌にあわせ、
フンフンフフンと鼻歌紡ぎ、
全身をかたかた鳴らしてステップ踏んでくれたのが、
随分とお上手だったので、

 「おじさん、カッコいいvv」
 「次、次はキングダムのテーマしてvv」

あのチョー有名な歌手が子供番組とタイアップしたらしいお歌、
歌ってよ踊ってよとのリクエストが掛かったほどで。

 「………目立ってもいいのかな。」
 「何だよゾロ、祭りは目立つのも競争なんだぞ?」

それは“宴”じゃなかったか?
堅いこと言うなっ…なんてご意見が分かれてるようだけど。
た、頼むから、喧嘩だけはしないで楽しんでってね?
二人、いやさ三人とも。ね?





      ◇◇◇


 季節柄の緑も瑞々しい小さな島のあちこちで、様々なジャンルのお歌のリサイタルだの、歌姫とは別口のビューティコンテストだの。砂浜に埋めたお宝を探す競争に、ルフィ大活躍の沢ガニまんじゅう大食い競争まで。色んな催しが行われ、楽しかったり可笑しかったり、どの会場もどんと沸いてのにぎやかに。島じゅうを弾けさせるような活気に満ちての一日は過ぎて。

 「さても。」
 「さても、ご入来。」

 お昼下がりのまったりした空気の中。柄つきの金の房鈴を揺すって、しゃら・しゃららんと涼やかに打ち鳴らし。淡い緋色のインナーと赤いハレムパンツに、そんな下地が透けて見える不思議な生地の、前の合わせを左右から重ねて着る和国のキモノ、別名“ウチカケ”を羽織った巫女が二人ほど。昨日、町の男衆が総出で組み上げた、白木の舞台の中央までへと進み出る。彼女らは歌姫の候補者ではなく、神官ゆかりの家の娘さんたちだそうで。結構な広さの舞台は、岩の縁に囲われた泉に向かって組み上げられてあり。客席はそんな舞台とは泉を挟んで向かい合う位置どり。そちらも突貫で作られたらしい、階段状になった座席が、泉と舞台とを取り巻いていて。笙という笛や竪琴の奏でる曲が合図になったものか、町の衆や観光客らが座を占めてのほぼ満員。そんな中で、絽という透ける織りのキモノをまとった巫女の二人が、蝶々の羽根か天女の羽衣のように、

  袖をひらひら広げてのくるくる回ったり。
  そうかと思えば、
  ところどころで たんとんたんと足踏みをしたり、

 それは軽やかに舞って見せ。ちょっぴり不思議な旋律の曲が終わると、はたりと舞台の上へかしこまって正座をし、

 【 お集まりの皆様を証人に、
  これより 聖なる宝珠を授かる娘を定める儀を執り行う。】

 そんな詞をお声をそろえて奏上なさる。まずはと行われるのは、年頃の娘さんたちが次々に泉へと歌いかけ、底に沈む宝珠の中の1つを最も輝かせられた娘に、その年の歌姫の冠を授けるというもので。聖なる歌を神殿へ奉納する資格を得るという、言わば“御神託の儀式”でもあるのだが。今年の候補とやらが数人ほど、舞台の袖からお揃いの白っぽいサンドレス姿で次々出てくると、

 「〇〇ちゃんっ、頑張れ。」
 「▽▽ちゃん、落ち着いてね。」

 場内のあちこちから、微妙に場違いな張りようのそんな声が飛ぶのが意外。参加するのが年頃の若いお嬢さんたちな上、これだけの賑わいの中で行われる催しゆえに、いつの間にか、一種のコンテストっぽい空気になって来たのだそうで。さほど強烈な歓声に沸くという喧しさはないけれど、それでも厳かな空気は ちと薄く。場内もどこか和やかで、笑い声が立ったりしており。

 「以前は ただの神事だったんだけどもね。」

 我らがちゃんが初参加した4年前に、最年少だったこともあって、あんまりあがってたからって。あくまでも舞台の裏っ側でだけど、聖歌隊全員で応援したら、それから恒例になっちゃって…と。応援席、もとえ、観客席にて、アンダンテさんが苦笑混じりに言ったもんだから。それすなわち、

 「もしかせんでも、コトの起こりはあんたらなんだな。」

 そしてそして、そのあがり症の誰か様はといや。

 「〜〜〜〜。」

 別な人への応援エールが盛り上がるほど、注目を意識するのだろ。肩が張ってのずんと緊張しているようだというのが、遠目にも判るのだけれども。選りにも選って、その発端となったのが お仲間による応援だったとは…。剣豪からのご指摘に、たはは…と面目なさげに微笑ったアンダンテ氏、

 「日頃の彼女を見ていたら、
  そうまで あがり症だなんて思えなくってね。」

 あの、歓楽街の顔役に咬みつけるほど、勝ち気なお嬢さんだもの、と言われると。う〜ん、まあそれはそうかもと、納得してしまいもするゾロではあったが。

 「なんの、歌い出せば大丈夫。」

 雛壇の一角に並んで腰掛けていたその端っこ。もっこもこのボリュームあるアフロヘアが、後ろの席のお客様から不評を買ってる謎めきの骸骨さんが、(苦笑)舞台のほうを真っ直ぐ見つつ、そうと言い、

 「3年もの間、歌姫、ですか? 選ばれて来たのでしょう?
  どんな理屈の方が選ばれるのやら、
  私にはとんと判りませんが。
  すっかり懲りておいでなら、
  歌うこともとうに辞めて、離れてしまってるものですよ。」

 町の人たちや聖歌隊のお仲間の手前? 聖歌隊のお歌からして、そんなお義理で続けられるものじゃあない、と。淡々としたお声でそうと言い、

 「一昨年も昨年も選ばれたほどのお歌を、
  これだけの衆目の中で発揮出来たのが何よりの証拠でしょう。」

 相変わらずマスクのままなので、お顔の表情は拾えぬはずが。うんうんと頷く顎の動きで、ああ微笑んでいるらしいなと、判ったことが不思議でならぬ。後日、へそんな風に語ったアンダンテさんだったそうな。



  そうしてそして、ずんと年配の神官長の入場にて、
  さすがに打って変わって静まり返った舞台にて。
  ほぼ伴奏もないアカペラでの、
  聖歌のご披露という歌姫選びが始まって。


  「………おお、これは。」
  「何という目映さかっ。」


 外からおいでの飛び入りも構わぬという聖歌のご披露は、いやに麗しい美人二人が、美貌でも存在感でも殊の外 目立っていたものの。惜しいかな、どちらの美姫の声でも、泉の宝珠は ぼんやりうっすらと輝いただけ。先の一昨年、一昨年、昨年の歌姫だっただの、聖歌隊の代表だのという肩書を長々と紹介されての、全員の最後に舞台の中ほどへ進み出た嬢。ようよう覚悟を決めたか、腹に手を伏せ、深々と深呼吸をしてから歌い始めれば。

  潮風にも紛れぬ 朗々とした声の抑揚に合わせ、
  泉水の中でじわじわと点滅を始めた宝珠の中、
  泉の縁からあふれ出そうなほどの、
  神々しい光が一気に弾けた1つがあって。

 お互いの点滅もまた、何かしらの働きかけとなるのだろ、その末の不思議な輝きを示したからには。誰にも文句は出ないだろう、やはり堂々の一番星。どれがという宝珠も決まったその上で、今年もまた、という形で選ばれたのは、これで史上初の四年連続となる、奇跡の歌姫。やっと緊張がゆるんだらしく、頬を赤く染め、満面の笑みを披露しておいでのさんが。聖なる歌と今年の宝珠を神殿へ奉納する資格を得た姫として、神官長様から銀の冠を授けられたのでありました。






   ………………で。


 2位3位には、ちょっぴり大人でありながら、しかもしかも他所からお越しの見慣れぬお顔の美人二人が。これも滅多にないこと、宝珠を幾つも輝かせるところまでやってのけた美声を讃えられ。歌姫のよりは小ぶりのティアラと、錦の袋に入ったそれぞれへの褒奨金とやらを、いただくこととなったのだけれど。

 “……中サイズので良かったようね。”
 “ええ。”

 神官のかたがたの手により、泉から引き上げられたる今年の宝珠。二人の美人はその注意を、ビロウドの綿入り台座へ乗せられた、玉子型のつるんとした白い石へ向けており。

 「まずは、ノースブルー出身、ナコロ嬢殿。」
 「はい。」

 どういう偽名をつけたやら、おっとり微笑った黒髪のお姉様。神官長の前へ進み出て、胸元へと片方の手を伏せつつ少しほど身をかがめ、きれいなティアラをいただきながら、

 “……………。”

 伏せた手の陰からスルリと足元へ落としたは、宝珠によく似た白い石。だがだが、ごとりと音を立てなんだは、そんな彼女の足元へ、白木の床に紛れるほど やはり色白な手がにょきっと現れたから。その手のひらへと受け止められた白い石は、次々に咲く手から手へとリレーされ。宝珠が置かれた台座の陰へ こそこそこそりと一旦その姿を隠して音もなく…………。





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 *肝心なお歌の披露がいい加減ですいません。
  気の利いた歌詞とか思い浮かばなかったのと、
  ここが本旨じゃあないもので、つい。

  そして、ロビンさんやナミさんの企みがいよいよの始動です。
  どういう仕立てとなったやら。
  続きは もちょっとお待ちをvv


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